図書館の資料修復技術を駆使してカピカピになったポイ捨てエロ本を蘇らせる

<こちらの記事がオモコロ杯2022で優秀賞を受賞しました


 

最近は見かけなくなった、道ばたに捨てられたエロ本。

 

私が子供の頃には、ひとけのない道ばたによくエロ本がポイ捨てされていた。

 

当時はスマホなんてないし、自分専用のパソコンだってない時代。ちょっとエッチな少年マンガを買うお金すらなかった私にとって、ポイ捨てエロ本はエロを接種する唯一の手段だった。

 

しかし、そんな天からの恵み的存在であるはずのポイ捨てエロ本は、一方でとんでもない致命的な欠点を抱えてもいた。その欠点とは……

 

 

そう。ポイ捨てエロ本は大概読めない。

 

雨に濡れびしょびしょになったエロ本は持ち上げただけでページが破れ、

日光にさらされカピカピになったエロ本は固着して本を開くことすらできない。

 

もはやポイ捨てエロ本は、「全然読めねーじゃん!!」と空に向かって虚しく叫ぶ少年を生み出すエロトラップと化していた。

 

大人になった今、世にあふれる成人向けコンテンツをいくら摂取しようと、カピカピになったポイ捨てエロ本を手に立ち尽くしたあの時の心の傷が癒やされることは無い。

 

あの日見れなかったポイ捨てエロ本の中身に思いを馳せ、いつまでも成仏できずにいる心の中の少年時代の私から目をそむけて生活していたある日のこと……

 

テレビから流れるニュースを見た瞬間、私の脳内に稲妻が走った。

それは、被災した図書の修復に関するニュースだった。

 

どうやら、国立国会図書館や東京都立図書館には資料修復専門員という専門家がいて、被災した図書や文化財を蘇らせる技術を持っているらしい。

 

「この修復技術を用いれば、カピカピになって読めなかったポイ捨てエロ本を、普通に読める状態に修復できるのでは……?」

 

それから数日間、私はみっちり資料修復について勉強した。

日本図書館協会が出版している資料修復の本を購入し基本知識を蓄え、

 

国立国会図書館が提供する図書館員向け研修ビデオを視聴して目からも学び、

 

東京都立図書館が公開している資料保存に関するページを隅々まで読み専門道具を買い揃え、

 

https://www.archives.go.jp/about/activity/reconstruction/pdf/syuhukumanual.pdf

国立公文書館の被災公文書等修復マニュアルで実践的な修復手順をマスターした。

 

 

いける。今の俺なら、道ばたに落ちてるボロボロのポイ捨てエロ本を、読める状態まで修復できる

 

何の知識も持たず、笑顔でポイ捨てエロ本に駆け寄っては落胆するしかなかった少年時代の俺を、今の俺なら救える

 

今こそ、あの日の雪辱を果たそう。

そして、あの日あきらめたポイ捨てエロ本の中身にたどりつこう。

 

 

そう、これは、あの日拾ったポイ捨てエロ本に絶望した少年時代の自分を救うため立ち上がった、一人の男の10日間の物語である。

 

 

第1章「思い出の彼方へ消えたポイ捨てエロ本」

というわけで、この記事ではポイ捨てエロ本を実際に探し、「図書館の資料修復技術を使って、カピカピになったポイ捨てエロ本を普通に読める状態まで修復できるか?」を検証します。

 

まずは修復するためのポイ捨エロ本探しから開始。エロ本を捨てる人間には「誰にも目撃されたくない」という心理が働くので、基本的にポイ捨てエロ本は人通りの少ない場所に捨てられているはず。

 

ただ、わざわざエロ本を捨てるために自宅から遠い森や川までは行かないため、今回は街の中にある人目につきにくい場所に狙いを定め、ポイ捨てエロ本の獲得を目指します。

 

スマホが普及しコンビニからもエロ本が撤去された今、ポイ捨てエロ本どころかエロ本そのものを見かけなくなって久しいですが、果たしてポイ捨てエロ本を発見できるのでしょうか!?

川沿いの橋の下はポイ捨てエロ本がよく捨ててあった気がするので、まずは川にやってきました。さっそく橋の下を探索します。

あ!!

あれはかなり紙っぽい!

はやくもポイ捨てエロ本を発見したか……?

週刊へらニュースでした。

へら縛りで毎週ニュース足りるの???

川沿いの土手を歩いて探索し続けたもののポイ捨てエロ本は発見できず、今度は田んぼが広がる田園地帯にやってきました。

不法投棄に対する注意喚起の看板があるので、勝手に物を捨てていく人がいるのは間違いなさそうです。

 

それにしても、看板上に設置された監視カメラのカバー範囲の狭さが気になりますね。

そして、ノーガードすぎる監視カメラの背後にさっそく何かが捨てられていました。

なんかカラフルだし、かなりカラーのエロ本っぽくない?

どう? 今度こそどうだ……?

ジャパネットのカタログでした。

エアコンがお買い得らしいです。

あまりにもエロ本が無さすぎるので、作戦変更。今住んでいる自宅の周辺で捜索するより、ポイ捨てエロ本を実際に見かけた当時の通学路を重点的に探すことにしました。

 

というわけで、エロ本を探すためだけに地元に帰省。少年時代の自分の記憶を頼りに、思い出のエロ本スポットを巡って今度こそポイ捨てエロ本の獲得を目指します。

ん? あれは??

D・V・D !!

でも中は空っぽでした……。

と思ったら?

初撮り人妻ドキュメントだあああ!!!!!

エロ本は1冊も見つかりませんでした。


第2章 「あの日のポイ捨てエロ本との再会」

2日間、途中雨に打たれながらも100kmバイクを走らせエロ本を探し続けましたが、エロDVDは見つかるもエロ本は見つからずという結果になってしまいました。

 

途方に暮れ、Twitterに助けを求めてみたものの……

誰からも一切リツイートされない拡散希望ツイートが誕生しただけでした。(記事がバズったので、現在は少しリツイートされています)

 

どうしたものかと頭を抱えていると、脳内マリーアントワネットが語りかけてきました。

確かに。

 

ということで、天然物のポイ捨てエロ本は絶滅危惧種過ぎて発見できなかったので、実際に野外にエロ本を放置して風雨にさらした養殖ポイ捨てエロ本を作ることにします。ありがとう、脳内マリーアントワネット。

ただ、一つ問題があります。私は戸建ての借家に住んでおり、バードウォッチングができるくらい広大な庭があるのですが、この庭は大家さんと共同で利用させてもらっています。

 

同じ敷地内に大家さんの家もあり、大家さんの家族も頻繁に共同の庭を利用するので、エロ本を庭に放置することは不可能な状態。

ベランダがあれば良かったのですが、うちは築85年のボロい古民家なのでそんなものはありません。

 

風雨にさらされる屋外だけど、大家さんたちにエロ本を発見される心配のない場所があればいいのですが、もちろんそんな都合のいい場所は無く……

あった。

 

自分の部屋の窓を開けたら0秒であった。この屋根の上なら大家さんたちにバレること無く、エロ本をボロボロになるまで外に放置できます。

よし、さっそくここでポイ捨てエロ本を飼育しよう。

 

エロ本をポイ捨てするための箱庭をつくろう

屋根の上でエロ本を放置するわけですが、実際のポイ捨てエロ本と同じように土の上で放置したかったので、屋根の上に設置する箱庭をつくります。

バットに庭の土や落ち葉を入れて、いい感じに雑草を配置すれば……

おそらく世界初、エロ本をポイ捨てするためのだけの箱庭が完成!

 

ということで、この箱庭にエロ本をポイ捨てし、屋根の上でボロボロになるまで放置し、その後そのポイ捨てエロ本を修復します。

 

自分でも何を言ってるかよくわからなくなってきましたが、皆さんは大丈夫ですか? ついてこれていますか?

 

リタイアする方はコチラからヤフートップページへ飛べるのでどうぞ遠慮せずにご退場ください。

 

ポイ捨てするエロ本を仕込もう

今回、箱庭にポイ捨てするエロ本はコチラ。

 

モノクロのマンガが20本掲載されているコミック誌『美少女ぱんち 胸が弾けるサマーボディ♥』になります。

表紙に「ボリュームMAX380ページOVER!!」と書かれているようにめちゃくちゃ分厚いです。

 

「どうせエロ本買うなら、分厚いほうがスケベのコスパがいいよな」と中学生みたいな思考回路で分厚いエロ本を買ってしまったのですが、この選択が後々自身を苦しめることになります。

裏表紙はこんな感じです。私は黄色の子推しです。はい。大嘘先生大好き。

 

このままエロ本を箱庭に設置して雨風にさらしても良かったのですが、資料修復専門家の技術は津波をかぶり泥まみれになった図書さえも修復してしまうポテンシャルを持っているようなので、今回はあえて水没させ難易度をハードモードに設定します。

まず、水を入れたバケツに 土・砂利・落ち葉を大量に投入。

シャベルでかきまぜたら、表紙イラストを描いた庄名 泉石先生に心のなかで謝罪しながら、『美少女ぱんち 胸が弾けるサマーボディ♥』を泥水に沈めます。

この作業を大家さん一家に目撃されたら、その瞬間に私は「エロ本を泥水に沈める特殊な性癖を持つヤツ」になってしまうため、人の気配を察知しようと全神経を集中させながら作業を進めていきます。

このままバケツで泥水に沈めておこうと思ったのですが、こんな感じで水面に本が浮いてしまうので……

ジップロックで泥水にエロ本をつけ込んで置きます。

なんだか、「エロ本を隠し持っていた息子を最も残酷な方法で懲らしめるお母さん」みたいになってしまいました。

 

こんな感じで、水濡れどころか泥水まみれにした後、用意した箱庭にエロ本をセッティングすれば……

あの日の思い出がよみがえる、ポイ捨てエロ本の箱庭が完成。

エロ本のサイドに「ポイ捨てされた空き缶」などのアイテムを配置すると、”エロ本がポイ捨てされている場”のリアリティがぐっと増すので、ポイ捨てエロ本のジオラマ制作を考えている方は参考にしてください。

ということで、実は記事の冒頭に掲載していたポイ捨てエロ本は、道ばたに捨てられていた天然モノではなく、箱庭に配置された養殖モノだったのです。

 

バットがちょっと写り込んでいたのですが、皆さん気がつきましたか?

 

箱庭を屋根に設置しよう

さっそく、ポイ捨てエロ本をのっけた箱庭を屋根にセットしましょう。箱庭にバンドをくくりつけ、このように屋根の上に吊り下げます。

 

このままエロ本を風雨にさらし、ボロボロのカピカピになるまで放置しましょう。

手前の瓦についている変なあとは、ホコ天かってくらい行き交っている獣たちの足跡ですので、スルーしてください。

下から見るとこんな感じ。何かが屋根の上にあるのは観測できるものの、エロ本だとは認識できないので大家さんに見られてもなんとかなるはずです。

 

ただ、「家を貸している入居者が屋根の上でポイ捨てエロ本を飼育している」という怖すぎる現実を万が一大家さんに知られてしまったら……どう考えても賃貸契約を打ち切られてしまうので、

そのときは、「こういう現代アートです」とごまかします。

 

ポイ捨てエロ本がボロボロになるまで見守ろう

箱庭を屋根に設置したら、あとはポイ捨てエロ本が太陽光や風雨にさらされボロボロになるのを待ちます。箱庭はこんな感じで、ベッド脇の窓から見えるので……

朝起きたら、まずはポイ捨てエロ本に「おはよう」という生活が始まりました。

 

部屋のサボテンにおはようっていう人とか普通にいるから、そんなにおかしなことじゃないはず。

屋根の上に放置して数日様子を見ていた結果、本を閉じた状態だと濡れたポイ捨てエロ本はなかなか乾かないことが分かりました。

 

図書の修復は濡れたままの状態よりも、濡れたあとに乾燥してカピカピに固着した状態のほうが難しくなります。

 

今回はあえて難易度をハードモードに設定し、資料修復技術の可能性を試したいと思っているので、完全放置はやめて本が乾燥するようコントロールすることにしました。

本を開いてたまにページをめくったり、雨の日は屋内に退避させたり、そんな世話をしながらエロ本を屋外にさらし続けた結果……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の頃に拾って絶望した、カピカピボロボロのポイ捨てエロ本が完成!!

 

いよいよ修復編に突入します。

 

第3章 「エロ本修復は永遠に」

まずは、これから闘いを挑むことになるカピカピボロボロのエロ本をご覧ください。

え?

いや…コレもう……

ページがもう…これ……

ゴッホの絵かってくらいウネってんじゃん!!!

なんかもう、「呪いの書」みたいな独特のまがまがしささえも感じられるポイ捨てエロ本を召喚してしまいました。

泥水や雨で濡れたページは完全に乾いてカピカピの状態に。

少年時代、手に取り落胆した因縁のカピカピエロ本と十数年ぶりの再会です。

表紙はかろうじてくっついてる状態……

かと思ったら全然そんなことなかった。

 

しかも、表面のビニール素材の部分が台紙から剥がれ、ぐしゃぐしゃに丸まっちゃってますね……。

たまにページをめくりながら風にさらしたおかげか、ページの角にはかなり頑固なクセが付いています。

そして、ページ内部には泥やチリがたっぷり付着。

白かったページは、もはや茶色に。

 

固着している箇所も複数あるので、ページをペラペラめくることはもはや不可能な状態です。



 

……チェンジとかありですか?

 

修復作業① 解体・ナンバリング

調子に乗ってバケツに突っ込んだりジップロックで漬けてしまったことを1時間くらい後悔したのち、修復作業に取り掛かりました。

 

まず修復する資料を点検し、被災資料調査票に資料の状態等を記入。(今回は国立公文書館の被災公文書等修復マニュアルの調査票を使用)

 

今回のポイ捨てエロ本は、水濡れあり・剥離可能な固着ありという状態だったので、

 

①解体・ナンバリング

②固着剥がし・ドライクリーニング

③殺菌・ウェットクリーニング

④乾燥・フラットニング

⑤破れ補修

⑥再製本

 

という手順で処置を行います。こいつは長い道のりになりそうだぜ……。

ということで、まずは手順①の解体・ナンバリング。

 

泥水をかぶった本はカビが生えている可能性が高く、作業中はカビや砂などを体内に吸い込むおそれがあるので、マスク・ビニール手袋を着用しサーキュレーター等で換気をしながら作業にあたります。

まずは、各ページののど(本の綴じ目付近)にページ番号を記入するナンバリング作業から開始。解体した後でもページ順がわかるようにします。

盛り上がっちゃってるシーンではコマ割りが無く、本の綴じ目ギリギリにまでマンガが描かれていました。

 

こうなるとページ番号を記入する余白部分が無くて困っちゃうのですが、ちょうど局部修正が白塗りされていたので、そこにページ番号を記入することで事なきを得ました。

ナンバリング作業が完了したら、解体作業に移ります。1枚ずつ剥がすと破れるリスクが高いので、10ページくらいまとめて剥がし、

その後1ページずつ剥がします。

「なんか解体した部分ガタガタじゃない?」と思われた方がいるかも知れませんが、

 

出典:令和元年度資料保存研修 無線とじ本の修理

今回の本は網代綴じ(あじろとじ)といって、背の部分にギザギザの溝を掘って糊付けされているので、解体したページの背の部分もガタガタになっちゃうんですよね……。

再製本時の仕上がりに影響しないか少し不安です。

1時間以上かけてようやく解体作業が完了しました。

 

ホチキス留めされてる本ならペンチで針金引っこ抜くだけで簡単に解体できるし、背がギザギザになってない無線綴じの本ならもっと簡単かつキレイに解体できたでしょう。

 

皆さんがエロ本を解体する場合は、網代綴じ意外の本を選ぶことをおすすめします。

 

修復作業② 固着剥がし・ドライクリーニング

解体したあとは、固着してしまっているページを1枚ずつ剥がす固着剥がしを実施。

無理に引っ張ると破れてしまうので、ヘラやピンセット、竹串などを使い少しずつ慎重に剥します。外科医のオペか?

 

固着が激しい場合は霧吹きで湿らせたり、水滴を垂らしたりしながら、ほぐすように固着を剥がします。

固着剥がしが終わったら、お次はドライクリーニング。ハケ、たわし、クロス、スポンジ等を使い、ページに付着した泥やチリを除去します。

 

一番右端にある黄色いやつは、カビや汚れ除去に使う練り消しですね。ものすごくフルーティーなパイナップルの香りがします。

こんな感じで、作業はダンボールで作ったクリーニングボックス内で実施。砂やチリが飛散するのを防いでくれます。

泥水に漬け込んだだけあって、こんな感じで土が付着しているので、

このようにハケなどでキレイにしていきます。

こんな汚れも……

ハケで大まかな泥をはらって、

スポンジで細かい砂を落とし、

クロスで表面のチリを拭き取り、

練り消しでカビや吸着した汚れを除去すれば……

こんなにキレイになりました!

今回修復している『美少女ぱんち』は380ページあるので、この作業を380回繰り返します。

 

 

 

正気か?

 

1日中エロ本のページをハケではらい続けた結果、ようやくドライクリーニングが完了。エロ本に対して、「頼むからもっと薄くあってくれ……と人生で初めて思いました。

 

修復作業③ 殺菌・ウェットクリーニング

ドライクリーニングが終わったら、殺菌・ウェットクリーニングに移ります。まだまだ道のりは長い。

 

まず殺菌ですが、こんな感じに網戸ネットを切ったものにページを挟み込み、

霧吹きでエタノールを吹きかけます。きちんと殺菌しておかないとのちにカビが発生する可能性があるので、ここでしっかり殺菌します。

 

すべて殺菌し終えたら、ウェットクリーニングを始めます。ウェットクリーニングとは、そのまんま名前の通り水に濡らして洗浄する工程なのですが、紙って水に濡れるとめちゃくちゃ破れやすくなりますよね?

 

本来なら、そんな状態でハケでこすったり持ち上げて移動させたりできないはずですが、資料修復の世界には濡れた紙ザコすぎ問題を解決したすんごい洗浄方法があります。それは……

ちゃんとドラえもんの声で脳内再生した?

 

できなかったという人は、この後もう一度チャンスがあるので再チャレンジしてください。

フローティング・ボード法では、ぬるま湯を張ったバット、発泡スチロール板、網戸ネットの3点を使用します。

 

ちなみにバットは箱庭を作ったときに使用していたやつを再利用しています。サスティナブルですね。

このようにぬるま湯の中に発泡スチロール板を浮かせ、その上にネットに挟み込んだページを載せます。

 

発泡スチロール板を軽く押して、ページの上に水を流し入れれば……

このように水に濡らしながらハケでの洗浄が可能!

ハケでこすっても発泡スチロール板が下から支えてくれるし、ネットが保護してくれるので破けることはありません。

 

ページの表面を洗浄し終えたら、ネットごと裏返して裏面も同様に洗浄します。

洗浄を終えたら、吸水クロスの上に置いておいた不織布の上にページを載せ、ページの上からも不織布をかぶせ挟みます。

そして吸水クロスでページの水分を吸収。この後、修復作業④ 乾燥・フラットニングの工程に進みます。

 

修復作業③のウェットクリーニングを終えたページは乾く前にすぐ修復作業④の乾燥の工程に移らないといけないため、修復作業③と④は同時進行で進めていきます。

ウェットクリーニングの工程は以上です。

この工程も、380回繰り返します。

 

 

本当に、薄い同人誌とかにすればよかったね。

 

修復作業④ 乾燥・フラットニング

修復作業④では、乾燥・フラットニングの処置を施していきます。

 

フラットニングは紙についたシワやよれを伸ばし真っ直ぐにする工程。紙は乾燥する際に縮んでよれる習性があるので、ただ単に乾燥させるのではなく、乾燥と同時にフラットニングの処置を施す必要があるんですよね。

 

ただ、乾燥後の仕上がりをフラットに保つよう調整しながら資料を乾燥させることは、資料修復の専門家にとっても難しい作業でした。

しかし、1988年にアメリカで革命的な乾燥方法が発明されます。その名も……

シンプルだけど想像以上すごいやつ、それがエア・ストリーム乾燥法。

一体何がそんなにすごいのか?

エア・ストリーム乾燥法を実施するにあたり、まずはダンボールを用意します。

乾燥させたい資料よりひとまわり大きいサイズにカットしておきましょう。

ウェットクリーニングを終え、不織布に挟んだ状態のページをさらにろ紙(キッチンペーパー)で挟み、その上からさらにダンボールでサンドイッチします。

そしてこれをどんどん積み重ね束にして……

このダンボール束を板ではさみ、上に重しを載せ扇風機等で空気を送ります。

ここで重要なのが、重ねたダンボールの波状の穴を扇風機に向けること。

エア・ストリーム乾燥法は、この波状の隙間にガンガン新しい乾燥した空気を送り込むことで、濡れた紙を均一かつ急速に乾燥! 通常かかる時間の3分の1程度、3~4時間で乾燥が終わります。

 

誰でも簡単に小スペースで大量の資料を急速乾燥でき、さらにダンボールやろ紙は繰り返し使えるというエコっぷり。

 

かつてはたくさんの吸い取り紙を使い、水を吸い取ったら新しい吸い取り紙に取り替える作業を延々と繰り返す必要があった乾燥作業が、エア・ストリーム乾燥法の登場により一変しました。エア・ストリーム乾燥法最高!!

乾燥に時間がかかって作業がストップしないか心配していたのですが、エア・ストリーム乾燥法ならその心配はなさそうです。

 

扇風機の数もアップさせ、どんどんウェットクリーニングをしてガンガン乾燥させていきましょう!

こんにちは。エロ本を修復している人、シュゴウです。

今は、あまりの作業の果てしなさに絶望しているところです。

やっと200ページ終わったとおもったら、まだ180ページもあるんですよ?

乾燥が速くたってウェットクリーニングにめちゃくちゃ時間かかるから全然終わらないし。この扇風機5台がうるさすぎて昨日全然寝れなかったし。

もういい大人なのに、みんなが働いてる平日に朝から晩までエロ本の汚れをハケで落として……。

 

少年時代の俺が見たらなんて言うだろうな……。

っしゃゃあああああ!!! 終わったあああああ!!!!

 

 

こんなだったのがああああ!!!!!

こう!!!!!!!!!

 

こんなだったのがああああ!!!!!

こうよ?

 

めちゃくちゃ見違えるほど!!!!!

キレイになってるじゃろがい!! がい!!

 

はい。連日のクリーニング作業から開放され、しかも笑っちゃうくらいキレイに仕上がったので、なんか感情がバグっちゃいました。

 

380ページのエロ漫画をハケでキレイにする工程を2セットもやらされたらね、誰でも情緒不安定になるからしょうがないね。

 

それにしても……

こんなにキレイになんの!?

ページのよれ、うねりは完全に解消されました。エア・ストリーム乾燥法すごすぎ。

 

かなりダメージが大きく、台紙とビニールが剥がれちゃってた表紙も、

こんな固着とかでグチャグチャだったのに……

ほぼ元通り!

ビニールのシワがちょっと気になるくらいで、ビフォーの状態からは想像できないくらいキレイになりました。

 

グチャグチャだった一番うしろのページは?

ドライクリーニングを施した時点でこんな感じだったのが……

え? シワの跡、消失してない……???

 

エア・ストリーム乾燥法のおかげで折れグセが無くなりまっすぐになるのはわかるよ?  でも、折ってできたシワの跡って消せるもんなの? あれって不可逆なものじゃないの??

 

紙の白さも完全ではないものの、ウェットクリーニングによってかなり取り戻せています。

 

資料修復は、頑張った人がちゃんと報われる世界でした。

 

修復作業⑤ 破れ補修

洗浄とフラットニングが終わったら、破れたページの補修を行います。


資料修復では、ページの補修等に生麩糊(しょうふのり)をよく使うとのことなので、私も生麩糊の粉を入手しました。

 

濃度を調節しやすく、乾いたあとも水で濡らせば溶かせるので、文化財などの資料修復にも利用されているんだとか。

粉のままだと使えないので、まず鍋に生麩糊と水を 1:3 の割合で入れ、しゃもじでよく混ぜます。そして強火で加熱すると……?

突然のモチモチ。マジで突然変異すぎてビビった。

これを漉し器で漉したら……

完成。タッパーに入れると食べ物にしか見えない。

 

きなことか合いそうですね。ちなみに生麩糊の原料は小麦粉から抽出したでんぷんなので、実際に食べても問題はありません。

完成した生麩糊は、適量を水と混ぜ濃度を調節して使用します。

本当は30分混ぜ続ける工程を10分にサボったので、めちゃくちゃダマになりました。

補修には、楮(こうぞ)100%の書籍・文化財補修用和紙を使います。補修専用の和紙なんてこの世に存在したんですね。

 

今回買った補修用和紙は5種の厚さの和紙がセットになっているのですが、ページの破れにはこの中で一番薄い和紙を使用します。

ご覧の通り、スケルトンゲームボーイもびっくりの透け透けっぷりですね。

今回補修するページはこちら。みんな大好きエッチな先パイ。

他にも濡れてるときにミスって破ってしまったページがいくつかあるので、全部補修します。

まず和紙を短冊状に切り離すのですが、カッター等は使わずに水を含んだ筆で線を引き、

引っ張ってちぎります。こうすることで端が毛羽立ち、補修する資料との境目を目立たなくしてくれます。

キッチンで作った生麩糊を塗ると、

こんな感じでほとんど見えなくなっちゃいましたが、黒い板に和紙がひっついてる状態なのでこいつをピンセットで摘み、

先パイにそっとのせます。

ページの上にクッキングシートを載せ、ヘラで和紙をなじませたら、

重しを載せ乾くのを待ちます。

 

そして30分後……

 

いや、キレイすぎない?

アップで見てもこの仕上がりっぷり。補修専用和紙半端ねえ~。

はみ出た部分はカッターで切り落とし、

先パイ、完 全 修 復 完 了 !

補修用和紙が想像以上に目立たなくしてくれました。

同じ手順で、他の破れたページも補修します。

 

相変わらず破れどこ?ってくらいキレイにくっつくので、めちゃめちゃ楽しく作業を進められました。

 

修復作業⑥ 再製本

ようやくすべてのページのクリーニング・フラットニング・補修が終了しました。

いやもう、ここまでの道のりだいぶ長かったねぇ……。

 

あとは再製本の作業を終えれば、すべての工程が完了!

今の段階ではページがまだバラバラの状態なので、ページに穴を開け糸で綴じる平綴じ(ひらとじ)という作業を行っていきます。

今回は本の厚さがかなり分厚いので、平綴じの作業をするにあたってずれないよう万力で固定。

まずは表紙と本体を接着するための「ハネ」と呼ばれる厚めの和紙を糊付けします。

表と裏の背の部分に、ハネを糊づけしたら、

網目状の寒冷紗 (かんれいしゃ)を、木工用ボンドで背表紙部分に貼り付けます。

ちょうどボンドが乾いたタイミングで、机の下に1枚ページが欠落しているのを目撃してしまいましたが、人生ってこういうことの連続だよねと自分に言い聞かせてスルーしたので特に問題はありません。

ボンドが乾いたら本に穴を開けます。穴を開けるための印を3箇所つけ、

目打ちを突き刺しハンマーで叩きまくります。

目打ちで穴を開けたら、糸を通して平綴じします。

今回は糸を通すのに製本用の針を使用。裁縫用の針と比べるととんがり具合がだいぶ控えめです。

すべての穴に糸を通し結んだら、

糸を切りボンドをつけ、

折りこんだハネで糸を包み込みます。やっと本らしくなってきました。

いよいよ最後の仕上げ。

背表紙とハネにボンドをつけ、表紙を本体と接着!

重しを載せたら、あとは乾燥するのをただただ待ちます!!

ようやく、すべての作業が終了しました……。

 

果たして、製本はうまくいっているのでしょうか!!

 

最終章 「よみがえったポイ捨てエロ本」

図書修繕の研究期間:2日

ポイ捨てエロ本の捜索期間:2日

ポイ捨てエロ本の作成作業:1日

解体・ナンバリング作業:1日

固着剥がし・ドライクリーニング作業:1日

ウェットクリーニング&乾燥作業:2日

破れ補修・再製本作業:1日

 

合計10日を費やし、ついにポイ捨てエロ本を蘇らせることに成功しました。

衝撃のビフォーアフターをご覧ください。

 

これが、

こう。

 

ぐしゃぐしゃだった表紙に、強烈な折れグセがついていた角も、

しっかり元通り。

 

2倍くらいに膨らんでいたページも、

めっちゃぴったり。

 

ゴッホの絵みたいにウネウネだった部分も、

驚愕のフルフラットに。

 

解体した部分がガタガタでちょっと心配したけど、

製本されてこの通り!

 

破れちゃったページも、

極薄和紙のおかげで全然目立たせずに修復!

 

泥で茶色になり、ページは固着し……

台紙から剥がれてグチャグチャだった裏表紙部分も、

ここまでキレイに

してやりましたよ!!!

 

カピカピ固着・泥水汚れ・ゴッホうねり・ページ破れの全てが解消。

ハネと表紙の接着や平綴じした糸部分も、結構キレイに仕上げられました。

唯一、失敗したな~と思うのがこちらの表紙の裏面部分。

 

汚れが酷かったので水道の蛇口から直接水をかけたのですが、印刷面が水流に耐えられずボロボロと台紙から剥がれ落ち、そのまま排水溝へ。

 

ネットで保護してウェットクリーニングをするフローティング・ボード法の重要性がよくわかりました。

ちなみに、本を開くと平綴じした糸が見えます。

自分で通した糸がこうして見えるの、ちょっと嬉しい。

ほら見て? あんなに汚くてガビガビだったのに今こうよ? スゲくね? スゲくね?

砂や泥も完全に除去しているので、ベッドの上で読んでも砂が落ちるなんて心配はありません。

 

買った当初は普通に「あらまぁ、エッチですねぇ~」って感じで読めたのですが、何日もの作業を経た今はもう、エロいとか通り越して愛着が湧いてしまっている状態なので、まるで我が子のアルバムを眺めるような感情しか湧かなくなりました。もう、絶対に捨てられない。

 

ということで、「図書館の資料修復技術を使って、カピカピになったポイ捨てエロ本を普通に読める状態まで修復できるか?」という検証は、「普通に読める状態どころか、ほぼ元通りくらいキレイになる。ただしめちゃくちゃ手間はかかる」という結果になりました。

 

あの日拾ったカピカピポイ捨てエロ本の雪辱を果たすことができたので、心の中の少年時代の私も成仏してくれることでしょう。

これは余談なのですが、ドライクリーニングの汚れ取りで使った練り消しが香り付きだったので……

ヒロインの女の子からめっちゃフルーティーなパイナップルの匂いがするようになっちゃいました~!!

これは大変だ~~!! この素敵なライフハック、皆さんもぜひ試してみてください。

 

それでは、さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや~、修復作業マジで大変だったな~。

やっぱ、薄い同人誌とかにしておくべきだったよな~。

以上、シュゴウがお送りしました。

 

 

シュゴウ (@shugou17) | Twitter

いろんなメディアで記事を書いてます。

 

 

<参考資料>

国立公文書館被災公文書等修復マニュアル 

今回の修復の基本的な流れはこの資料を参考にした。

 

国立国会図書館 令和元年度資料保存研修 無線とじ本の修理

本の解体や平綴じ修理についてはこの資料を参考にした。

 

国立国会図書館 令和元年度資料保存研修 簡易補修テキスト

破れたページの補修についてはこの資料を参考にした。

 

国立国会図書館 図書館員向け遠隔研修 動画で見る資料保存:簡易補修

国立国会図書館が提供する、図書館員向け研修ビデオ。動画でわかりやすい。

 

資料保存のページ|東京都立図書館

図書の修復・資料保存に関する情報がかなり充実している。

 

岩手県陸前高田市立図書館 被災資料の修復|東京都立図書館

陸前高田市の被災資料の修復について、実際のレポートがまとめられている。

 

東京文書救援隊: 処置内容

フローティング・ボード法とエア・ストリーム乾燥法の仕組みや歴史が掲載されている。

 

エア・ストリーム乾燥法―大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する | 株式会社 資料保存器材

エア・ストリーム乾燥法のメカニズムや革新性がよくわかる論文。